東京大学生命科学シンポジウム2011

地球上の生命に関する不思議や、病気の原因や治療方法の開発、生命科学と人間社会の関わりなど、東京大学では多種多様な分野の研究と教育を進めています。

バイオイメージング研究は新たな生命科学研究を切り拓く

 生命科学研究のゴールの一つは生理活性分子(生理活性小分子のみならず受容体、酵素、イオンチャネルなども含む)の作用を生きている(あるいは活性を持っている)その場で明らかにすることである。そのための手段として分子イメージングの果たす役割は大きく、イメージング技術を支える蛍光顕微鏡などの測定機器と共にプローブの存在が必要不可欠である。例えば、カルシウムイオンが生命にとって非常に重要な化学種であることを否定する人はいないであろう。カルシウムイオンの生理機能の解明にはカルシウムイオンを生細胞中あるいは生体組織から捉えるバイオイメージングプローブの存在は極めて大きく、現在でも多くの研究者により汎用されている。カルシウムイオンイメージングプローブがもし創製されなかったとしたら、カルシウムの研究はこれほど進展しなかったと思われる。プローブは多くの生命科学研究者に求められている生体の機能探索分子であり、重要な生理活性分子をカルシウムと同じようにイメージングすることが出来れば、生命科学研究は一段と進展することは疑いない。  では、このようなプローブを創製するために重要なことは何か?実用的な機能性プローブはランダムに蛍光化合物を合成しても生み出されることはない。蛍光特性を制御する原理が重要であり、新たな原理が見出されれば、その原理からいくつもの新たなバイオイメージングプローブが開発できる。  我々の研究チームは我々自身が明らかにした光誘起電子移動(a-PeTとd-PeT)機構、閉環/開環機構とともに蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)機構、分子電荷移動(ICT)機構を原理としてプローブの開発を行っている。我々は原理に基づいて新規プローブを創製し、それを実用レベルにすることを研究室の大方針にしている。その結果、現在までに四十数種類の蛍光プローブの開発に成功してきた。そのうち十三種類については市販しており、世界中で用いられている。新たな原理は新たなプローブを生み出す。  更に、この様な研究は細胞レベルの基礎研究に留まらず、臨床への応用が試みられている。そのための実験動物個体を用いたバイオイメージングプローブの開発も我々の研究グループでは行っている。具体的な最近の成果として近赤外領域発光蛍光プローブ、梗塞部位検出イメージングプローブ、がんイメージングプローブあるいは高感度の動脈硬化バイオマーカー検出プローブの開発などである。  本講演ではプローブ開発の原理と原理に基づいたプローブの分子設計法と化学合成およびそれらのプローブの生体系(生細胞から動物個体まで)への応用研究について紹介する。

図1
図2

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長野 哲雄
長野 哲雄
薬学系研究科

略歴
1972年 :
東京大学薬学部卒業
1977年 :
東京大学薬学系大学院博士課程修了
1977年 :
東京大学薬学部助手
1983年 :
米国デューク大学医学部Research Associate
1986年 :
東京大学薬学部助教授
1996年 :
東京大学薬学部教授
1997年 :
東京大学大学院薬学系研究科教授(大学重点化に伴う措置)
2006年:
東京大学生物機能制御化合物ライブラリー機構長(兼任)
2011年:
名称変更 東京大学創薬オープンイノベーションセンター長(兼任)
現在に至る

参考資料
1. "Development of Fluorescent Probes for Bioimaging Applications"Tetsuo Nagano, The Proceedings of the Japan Academy, Series B, 86,.837-847 (2010) .
2. "Bioimaging Probes for Reactive Oxygen Species and Reactive NitrogenSpecies" Tetsuo Nagano, J. Clin. Biochem. Nutr., 45, 111-124 (2009).
3. "Bioimaging of Nitric Oxide" Tetsuo Nagano and Tetsuhiko Yoshimura,Chemical Reviews, 102, 1235-1269(2002).22: 471-478.
http://www2.f.u-tokyo.ac.jp/~tlong/
Japanese/gyoseki/ronbun.html

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